545-湿瓶姬
台風が近づいてきていた。雲の流れが見る間に速くなってきた、屋根に登ったつやは、瓦を直しながら山と川を見渡した。山間の一軒家につやは住んでいた。その頃、一人の中年男が駅に降り立った。別れたはずの夫?長吉だった。
浮気が原因で数か月前に喧嘩別れした2人だが、長吉は復縁を迫って来た。つやは元の仲に戻る気はなかった。長吉は5万円を机の上に置いてその日は帰っていった。
春生と典子の若いカップルが雨の中、車をチェックしていた。ヘッドライトが歪み、車には血がこびりついていた。2人の表情はこわばっていた。ドライブの途中で喧嘩になり、引き逃げをしてしまっていたのだ。ナンバープレートを外して、川原で車を捨てた。駅に行ったが、折からの台風で電車が止まっていた。仕方なく近くに宿を取るしかなかった。
翌日もつやは大雨の中やって来た長吉をむべもなく追い返したが、心の中は揺れていた。ぼんやり道を歩いていたつやの後を春生がついて来た。車を処分するところをつやは見てしまっていた。春生は典子とのセックスに飽きて、別れようとしていた。つやは春生を家に入れて、話を聞いてやり、その後抱かれた。
その頃、長吉も駅前で足止めをくらい、近くのスナックでママとねんごろになっていた。翌朝、春生は新聞で引き逃げされた被害者が意識を回復したことを知った…。